賃貸Housing
借りている部屋にトコジラミが出たら——保健所は動きません。効くのは「書面」と「14日」Bed bugs in a rental — the health district has no jurisdiction here; what works is writing, and 14 days
最終更新: 2026年8月8日 | 最終確認: 2026年8月8日 | YO-MIDOKORO編集部 | 約14分

南ネバダ保健所(SNHD)は、賃貸住宅には管轄権がないと公式に明言しています。借主が持っている手札は州法NRS 118Aで、最初の一手は電話ではなく書面。ただし住んでいる自治体によっては、市のコード・エンフォースメントが動くこともあります。窓口の見分け方と、駆除の温度までまとめます。
アパートで刺され跡に気づいた時、日本の感覚だと「保健所に相談」が浮かびます。ラスベガスでは、ここが最初の落とし穴です。
南ネバダ保健所(Southern Nevada Health District、以下SNHD)は、自分のサイトでこう書いています。「The Health District does not have jurisdictional enforcement over rental housing and does not respond to Landlord/Tenant issues.」——賃貸住宅に対する執行の管轄権を持たず、家主・借主間の問題には対応しない。トコジラミの解説ページでも、賃貸の場合は「保健所に直接来ないでください」とはっきり書いています。
では誰が動くのか。順番に見ていきます。
なぜ保健所は「ホテルなら動く」のに、アパートでは動かないのか
線引きは、施設の種類です。
SNHDが権限を持っているのは「public accommodation facility(公衆宿泊施設)」で、その定義は同保健所の規則1.59にあります。ホテル・カジノ、リゾート、モーテル、ホステル、B&Bなど、時間単位・日単位・週単位で部屋を貸す施設です。同規則5.1.5は、客室に生きたトコジラミなどが公衆衛生上の迷惑になる種類と数で見つかった場合、その客室を直ちに閉鎖し、発生が解消するまで公衆の利用に供してはならないと定めています。
州法も同じ形です。NRS 447.030は「vermin or bedbugs」に侵された客室の燻蒸・消毒・改装を義務づけていますが、この章がかかる「hotel」の定義(NRS 447.010)はtransient public、つまり短期滞在の客に寝泊まりを提供する建物です。
つまり、月極で借りているアパートはこの枠に入りません。定義が挙げているのは時間・日・週の単位なので、週貸しのウィークリー物件は当たりますが、1年契約でも月ごと更新(month-to-month)でも、月単位のアパートは対象外です。ホテルの客室でトコジラミを見つけた場合だけは、SNHDの環境衛生課((702) 759-0588)が通報先になります。
住んでいる自治体で、受け皿が変わる
ここが実務上いちばん効きます。ラスベガス都市圏は、市と郡の未編入地域が入り組んでいて、同じ「ラスベガス」でも管轄が違います。
| 住所の自治体 | 賃貸室内の害虫への対応 |
|---|---|
| Clark County(未編入地域) | 対応しないと公式に明言 |
| City of Las Vegas | 対応すると公式パンフレットに明記(条文番号は未特定) |
| City of North Las Vegas | 編集部は公式の記載を確認できず |
| City of Henderson | 条例で「虫の発生」を違反状態と規定(運用は未確認) |
郡のコード・エンフォースメント(Public Response Office)は、「Clark County Code Enforcement does not have jurisdictional enforcement authority for rental housing and does not respond to landlord/tenant disputes.」と書いています。ストリップ周辺、パラダイス、スプリングバレー、ウィンチェスターなどは市ではなく郡です。日本人世帯が多いエリアの多くがここに当たります。
一方、ラスベガス市のコード・エンフォースメントは、公開しているFair Housingのパンフレットで、暖房・冷房・配管・電気の不備と並べて「infestations in a dwelling unit(住戸内の害虫発生)」の苦情に対応すると書いています。連絡先は 702.229.6615(音声案内で#3)。ただしこれはパンフレットでの案内で、編集部は根拠となる条文番号までは特定できていません。
ヘンダーソン市は条例が明確です。Henderson Municipal Code 15.12.050のM「Substandard residential buildings(居住適性の最低基準)」の1項kに「Infestation of insects, vermin, or rodents」が並び、これに当たる建物は本コードの違反と宣言されています。ただし同15.12.020の定義は、「health officer または免許を持つ駆除業者が判断した」うえで、有害または脅威になりうる数量であることを求めています。虫が1匹いれば即違反、ではありません。
なお、編集部が4自治体の条例を全文検索した範囲では、「bed bug」という語は見つかりませんでした。 トコジラミを名指しした条例は確認できず、insects / vermin / pests という上位概念で扱われています。「トコジラミ条例」を探しても出てこないのは、そのためです。
効くのは州法——「書面」と「14日」
自治体の窓口が動くかどうかにかかわらず、借主が確実に持っている手札は州法です。
NRS 118A.290は第1項の柱書きで、家主は賃貸期間中つねに(at all times during the tenancy)住戸を居住可能な状態に保たなければならない、と定めています。その中身を列挙した(g)に、こうあります。
Building, grounds, appurtenances and all other areas under the landlord's control at the time of the commencement of the tenancy in every part clean, sanitary and reasonably free from all accumulations of debris, filth, rubbish, garbage, rodents, insects and vermin.
害虫は、居住適性の項目に明記されています。
そのうえで手順を定めているのがNRS 118A.355です。借主は、どこがどう居住適性を欠いているかを特定した書面の通知を家主に届けます。家主がそれを受け取ってから14日以内に、適切に是正するか、是正のために最善の努力(best efforts)をした場合、借主はこの条文の手段には進めません。逆に、重大な不備を是正せず、そのための合理的な努力もしなかった場合、借主は次のことができます。
- 賃貸契約を直ちに解除する
- 実際の損害を回復する
- 裁判所に、状況に応じた救済を申し立てる
- 是正されるまで家賃を留保する(延滞金や通知手数料などを課されずに)
ここで2つ、正確に押さえておきたい点があります。
ひとつ。条文は「14 days」で、営業日ではなく暦日です(SNHDの解説ページは「14 business days」と書いていますが、条文の文言は days です)。
もうひとつ。基準は「14日で駆除が完了すること」ではありません。条文は「adequately remedies … or uses his or her best efforts to remedy」と書いています。14日以内に本気で手を打ったかが分かれ目です。業者の予約が入り、初回施工が済み、次回の日程が決まっている——という状態なら、家主側は「最善の努力」を主張してくるでしょう。
家賃の留保には条件があります。同条第5項により、留保した家賃を裁判所のエスクロー口座に預けていない限り、立退き訴訟での抗弁になりません。手元に置いたまま払わないのは、ただの滞納です。
なお、48時間ルール(NRS 118A.380)は使えません。あちらが対象にしているのは暖房・冷房・水道・給湯・電気・ガス・施錠できるドアなどの「必需サービス」で、トコジラミは入っていません。SNHDも虫の発生を「non-essential services」に分類しています。エアコン停止のときの48時間(土日祝を除く)と混同しないでください。
借主の側から崩れる2つの型
NRS 118A.355第2項は、借主がこの条文に進めない場合を2つ定めています。トコジラミでは、どちらも現実に起きます。
(a) 借主自身(または同居人・借主の同意で立ち入った人)の故意または過失による状態のとき。 家主側から「入居者が持ち込んだ」と主張されうる論点です。
(b) 借主が正当な立入りを拒んだために、家主が14日以内に是正できなかったとき。 駆除は住戸内に業者を入れないと進みません。予定を断り続けると、この規定に当たります。
加えてNRS 118A.310第1項(b)は、借主の基本義務として「占有し使用している部分を、その状態が許す範囲で清潔かつ安全に保つこと」を定めています。SNHDも借主側の協力義務として、業者が点検・施工しやすいように部屋を準備することを挙げています。
実務に落とすと3つです。書面で通知する。業者を必ず入れる。指示された準備をやる。 この3つが揃っていないと、条文の側に立てません。
熱で殺す——数字は成虫ではなく卵に合わせる
駆除の方法そのものについても、数字の扱いに注意が必要です。
消費者向けの解説では「110°F」という数字がよく出てきます。ですが査読論文の実測では、43.5℃(110.3°F)は成虫の半数致死温度(LTemp50)、つまり半分は生き残る温度です。下の表は99%が死ぬ温度(LTemp99)で並べているので、この110°Fとは別の指標だと分けて見てください。ここを「110°Fで死ぬ」と読むと、対策が空振りします。
ミネソタ大学のKellsとGoblirschが2011年に発表した研究(Insects誌・オープンアクセス)は、実際の全館加熱に近い毎分0.06℃という緩やかな昇温で試験した点が、それまでの研究と違います。結果はこうでした。
| 対象 | 温度 | 結果 |
|---|---|---|
| 成虫 | 48.3℃(118.9°F) | 99%が死ぬ(LTemp99) |
| 卵 | 54.8℃(130.6°F) | 99%が孵化しない(LTemp99・下記の注意あり) |
| 成虫 | 45℃(113°F) | 99%到達に94.8分 |
| 卵 | 45℃(113°F) | 99%到達に428.5分(約7.1時間) |
| 卵 | 48℃(118.4°F) | 99%到達に71.5分 |
卵は成虫よりはるかに熱に強い。45℃に置いても7時間生き延びます。著者らの結論は、全館加熱なら「48℃を71.5分、または虫が潜みうるすべての場所で50℃以上に達した時点で終了」。業者が目標にしている温度帯は45〜52℃で、室内の空気は55〜65℃まで上がることもある、とも書かれています。
表の54.8℃には注意書きが要ります。これは統計モデル(Probit)による推定値で、著者ら自身が過大評価の可能性があると書いています。同じ論文が実測から述べているのは、50℃が卵の即時致死の最低水準ということです。実務で使う数字は50℃以上のほうです。
一度の施工で終わらず再発した、という話が多いのは、この卵の耐性が理由のひとつです。
自分でできること/やってはいけないこと
米国環境保護庁(EPA)の家庭向けガイドから、温度に関わる部分を整理します。
- 衣類・寝具:洗ったうえで、乾燥機の高温設定にかける。SNHDは「hot設定で最低1時間」としています
- スチーム:蒸気の温度は130°F以上。ただし風量が強いと虫が散るので、ディフューザーを使う
- 冷凍:0°Fに設定した冷凍庫で、密閉袋に入れて3日間。EPAは家庭用冷凍庫が0°Fに達していないことが多いと注意しており、温度計での確認を求めています
- やってはいけない:EPAは「サーモスタット、プロパンのスペースヒーター、暖炉で室温を上げて殺そうとしないこと。効果がなく、危険です」と明記しています
夏のラスベガスなら車内に置けば、という発想も出ます。EPAは黒いビニール袋を日なたの閉め切った車に置く方法自体は挙げていますが、「成功は気候やその他の条件による」と条件付きです。卵を確実に潰すには袋の中が50℃以上に達している必要があり、そこまで上がったかどうかは測らないと分かりません。やるなら温度計を一緒に入れて、実測とセットで。
やる順番
- 虫を1匹確保して、写真を撮る(刺され跡だけでは特定できません。似た虫が複数います)
- 見つけた日付・場所を記録に残す
- 家主または管理会社に書面で通知する(メールで可。送信日時が残る形で)
- 通知した日をカレンダーに印を付ける。ここから14日を数えます
- 業者の点検日程を受け、指示された部屋の準備をする
- 施工日・作業内容・次回予定を、そのつど記録に残す
- 14日を過ぎても手が打たれない場合に、下の窓口へ相談する
契約書側で先に見ておくことは、賃貸契約を結ぶ前のチェックにまとめています。借り方の全体像は賃貸の借り方へ。
相談窓口(2026年8月8日時点)
- UNLV公衆衛生大学院 Landlord Tenant Hotline:(702) 895-1971 / cclth@unlv.edu(SNHDが案内している窓口)
- Nevada Legal Services:(702) 386-0404
- ラスベガス市 Code Enforcement(市内の住所のみ):702.229.6615(音声案内で#3)/ CodeEnforcement@lasvegasnevada.gov
- SNHD 環境衛生課(ホテルの客室のみ):(702) 759-0588
編集メモ:ノースラスベガス市が賃貸住戸内の害虫苦情をどう扱うかについて、編集部は公式の明言を確認できませんでした。ヘンダーソン市についても、条例上の権限は確認できましたが、実際に住戸内の苦情を受け付けるかを述べた公式の記載は取れていません。この2市にお住まいの場合は、市の窓口に直接ご確認ください。
※この記事は一般的な情報提供です。 個別の医療・法律・税務・移民・保険・金融に関する助言ではありません。制度・料金・要件は変わることがあり、実際の手続きや判断の前に、医師・弁護士・CPA(会計士)・各公式窓口など専門家にご確認ください。