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年金の「日米二重払い」は、条件を満たせば避けられる——協定と、日本国籍のない人に効く脱退一時金Paying into pensions twice, in Japan and the US, is avoidable — the totalization agreement, and the lump-sum refund for non-citizens
最終更新: 2026年7月6日 | 最終確認: 2026年8月10日 | YO-MIDOKORO編集部 | 約11分

日本とアメリカ、両方で年金を払うの?受け取れるの?答えは協定にあります。あわせて、日本国籍を持たない人が渡米前にやりがちな「損する選択」も。制度の骨格を整理しました。
アメリカで働き始めると、給料から社会保障税(Social Security)が引かれます。ここで多くの日本人が不安になる。「日本の年金はどうなる?」「両方で払うの?」「将来もらえるの?」——年金の話は複雑ですが、骨格はシンプルです。土台にあるのが日米社会保障協定。これを知っているかどうかで、払う額も、将来の受け取りも変わります。
二重には払わなくていい——それが協定の第一の役割
日本とアメリカは、2005年10月から社会保障協定を結んでいます。この協定の第一の目的は、同じ収入に対して両国の年金保険料を二重に払う状態をなくすこと。原則は「働いている国の制度に入る」です。
特に効くのが日本企業からの駐在のケース。分かれ目は派遣期間の見込みです。日本年金機構は「事業主により協定相手国へ5年を超えない見込みで派遣される場合には、協定の例外規定が適用されます」と説明しています。この場合は日本の年金制度に入ったままでよく、アメリカの Social Security 税は免除されます。逆に5年を超えると見込まれる派遣なら、最初からアメリカの制度に入ります。
日米協定にはもうひとつ、「6か月ルール」という条件があります。アメリカに派遣される直前に、原則として6か月以上継続して日本で就労または居住し、日本の社会保険制度に加入していること。転職してすぐの駐在などは、ここで引っかかることがあります。
免除を証明するのが適用証明書(Certificate of Coverage)。派遣元の会社(自営業者は本人)が年金事務所に交付申請します。申請は就労開始予定日のおおむね6か月前から可能です。逆に、現地採用でアメリカの会社に雇われるなら、アメリカの制度に入る。二重払いは、この仕組みで避けられます。
なお、予見できない事情で5年を超えてしまった場合は、原則アメリカの制度に移りますが、延長を申請して両国の合意が得られれば日本のままにできます。日米協定の延長は、予見不可能な事情なら3年まで、それに加えて企業や本人・家族の重大な困難を避けるために必要なら4年までという区分が案内されています。
加入期間は「通算」できる——第二の役割
もうひとつの大きな役割が期間の通算です。年金は、一定期間加入しないと受給資格そのものが生まれません。
- アメリカの Social Security:原則40クレジット(約10年)の加入が必要
- 日本の老齢年金:10年(120か月)の加入が必要(2017年に25年から短縮)
たとえば「アメリカで7年、日本で8年」だと、単独ではどちらも足りないように見える。ところが協定があると、両国の期間を合算して受給資格を判定できる。この15年が重なっていなければ、条件を満たせる可能性が出てきます。
ここにひとつ条件があります。両国の制度に同時に入っていた期間は、二重には数えません。 日本年金機構は「両国の年金制度に二重に加入していた期間は、年金加入期間の通算に当たっては、二重にカウントしません」と書いています。駐在で日本の制度に残ったままアメリカでも加入していた、といった重なりがある人は、その分を引いてから数えてください。
そして受け取る金額は、それぞれの国で実際に加入した期間分だけ。日本は日本の分、アメリカはアメリカの分を、各国が計算して支払います。「合算した分だけ増える」わけではない点に注意してください。
ここには条件があります。日本の加入期間を米国の受給資格判定に使うには、原則として米国で少なくとも6クレジット(四半期)を取得している必要があります。 SSAは「協定によりSSAが米国と協定国の加入記録を通算できるのは、労働者に少なくとも6四半期分の米国加入記録がある場合に限られる」と説明しています(SSA - U.S. International Social Security Agreements)。米国での就労がごく短い場合、通算そのものが使えないことがある点に注意してください。
日本国籍でない人の落とし穴——「脱退一時金」
ここからは日本国籍を持たない人の話です。日本人本人には関係ありません。制度の正式名が「短期在留外国人の脱退一時金」で、支給要件の1つめが日本国籍を有していないことだからです。条件は国籍と加入期間などで決まり、配偶者や家族という立場は要件ではありません。日本で働いていた外国籍の単身者にも同じように当てはまります。ただ、日本で働いていた外国籍の配偶者と渡米する家庭では、ここが効きます。「どうせ short stay だし、もらって帰ろう」——これが後で響く。
対象かどうかは、年金機構が挙げる条件を全部満たすかで決まります。
- 日本国籍を有していない
- 公的年金制度の被保険者でない
- 保険料納付済期間等が6か月以上ある(厚生年金なら加入期間の合計が6か月以上)
- 老齢年金の受給資格期間(10年=120か月)を満たしていない。この120か月には、日米協定により米国の加入期間も「合算対象期間」として入ります
- 障害基礎年金などを受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない(ただし、その資格喪失日にまだ日本国内に住所があった場合は、その後はじめて日本国内に住所がなくなった日から2年以上経過していない)
(日本年金機構:脱退一時金の制度。ページ更新日2026年4月1日、2026年8月3日確認)
見落としやすいのが最後の2年です。ここは起算日が2通りあり、どちらを使うかは順番で決まります。原則は「最後に資格を喪失した日」から2年。ただし、資格を喪失した時点でまだ日本に住所が残っていた場合に限り、その後はじめて日本の住所がなくなった日から2年になります。退職してからしばらく日本にいて、それから出国した人は後者です。逆に、出国してから資格を失った人は前者のまま。迷っているうちに、選択肢のほうが先に消えることがあります。
脱退一時金を受け取ると、請求する前のすべての期間が、日本の年金記録から消えます。 ここは消える範囲を小さく見積もらないでください。お金の計算に使われるのは上限月数までですが、消えるのは請求前の全期間です。日本年金機構も「この上限月数を超えて日本の年金制度に加入していた方が脱退一時金を請求した場合、脱退一時金の支給金額は上限月数で計算されますが、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなります」と書いています。たとえば日本で8年間加入していた人が請求すると、受け取る額は上限月数までなのに、8年分が消えます。
そして厄介なのが協定との関係。消えた期間は、将来アメリカの年金の受給資格を判定する「通算」にも使えなくなるのです。つまり、目先の一時金と引き換えに、日米の期間を合算して年金を受け取る道を自分で閉じてしまう可能性がある。
| 脱退一時金を受け取る | 受け取らない | |
|---|---|---|
| 目先 | まとまったお金が戻る | 戻らない |
| 日本の加入記録 | 請求前のすべての期間が消える(受け取る額は上限月数まで) | 残る |
| 日米通算への利用 | 消えた全期間が使えなくなる | 使える |
| 向く人 | 将来の受給可能性を専門家と確認したうえで判断した人 | 将来どちらかで受給の可能性がある人 |
なお、受給資格期間(120か月)をすでに満たしている人は、そもそも脱退一時金を請求できません。ここでも協定が効きます。この120か月には、米国の年金制度に加入していた期間も「合算対象期間」として入るからです(年金機構の脱退一時金請求書の注意事項に、協定を結んでいる相手国の加入期間が合算対象期間になると明記されています)。日本の加入が8年でも、アメリカで数年働いていれば通算で120か月を超え、請求そのものができないことがある。裏返せば、請求できてしまう人は、通算しても10年に届いていない人です。
「もらえるうちにもらう」が正解とは限らない——特に、この先も日米どちらかで働き続ける可能性があるなら、受け取る前に一度立ち止まる価値があります。
朗報——2025年にアメリカ側の減額ルールが撤廃
長年、外国の年金を受け取る人には不利なルールがありました。WEP(Windfall Elimination Provision)——アメリカの社会保障税がかからない仕事の報酬にもとづく年金をもらっていると、アメリカの Social Security が減額される仕組みです。
ここで日本の2つの制度は扱いが違いました。報酬にもとづく厚生年金は対象、居住にもとづく国民年金は対象外です。SSAの内部規程は「Japan's National Pension is based only on residency and not subject to the WEP」と書き、制度別の一覧でも厚生年金をY、国民年金をNとしています。つまり日本の年金を受け取っていれば必ず減らされた、という話ではありません。
そのWEPが2025年1月の Social Security Fairness Act で撤廃されました。日本年金機構の案内では、2024年1月分(2月受け取り分)以降の年金について減額措置がなくなったとされています。厚生年金を受け取りながらアメリカの Social Security も受け取る人にとっては、遡って効く話です。支払いの進み具合や個別の該当可否は人によって違うので、該当しそうな人はSSAで自分の記録を確認してください。
日本の年金を海外で受け取るとき
すでに日本の年金を受給していて、アメリカに住む場合。受給は続けられますが、「現況届」を年1回出す必要があります。期限は誕生月の末日。用紙は日本年金機構が誕生月の3か月前に送ってきます。
日本国籍の人が添えるのは、在住国の日本領事館等が発行する在留証明。ベガスなら在サンフランシスコ日本国総領事館です。証明日は誕生月を含めて過去6か月以内のものでないと無効なので、早く取りすぎても駄目です。加給年金の対象者がいる場合は、その人の証明も要ります。
ここが2026年時点の朗報ですが、2つの電子化は役割が違います。順番に読んでください。
ひとつめはe-証明書。2025年5月27日から、ほぼ全ての在外公館で電子的に作成した在留証明が取得できるようになりました。ただしこれは現況届に添付する在留証明を電子で取る手段で、現況届そのものの提出方法は変わりません。
ふたつめがe-Gov電子申請で、こちらは現況届そのものを出せます。ただしマイナンバーカードを持っている人に限られます。
つまり、郵送を完全になくせるのはマイナンバーカードがある場合。カードがなければ、在留証明を電子で取れても、現況届は従来どおり送ることになります。
用紙が誕生月の中旬までに届かないときは、待たずに様式をダウンロードして在留証明を添えて出してかまいません。一時帰国中で在留証明が用意できないなら、パスポート等を持って最寄りの年金事務所へ。提出を忘れると受給が止まるので、誕生月はカレンダーに入れておいてください。
まず押さえる順番
- 駐在なら:適用証明書で二重払いを回避(対象になる期間と条件は年金機構で確認)
- 現地採用なら:アメリカの制度に入る=日本は任意加入や空白期間の扱いを確認
- 日本国籍でない人は(配偶者・家族に限らず、外国籍の単身者も対象):脱退一時金は「通算を捨てる」ことでもある。慎重に
- 受給が近いなら:日米それぞれに請求。WEP撤廃で条件は以前より有利に(もともと減額されていたのは厚生年金などを受け取る人。国民年金だけの人は対象外だった)
最後にひとつ。年金は一人ずつ加入歴が違い、判断はその人の事情に強く依存します。この記事は制度の骨格を整理したもので、個別の損得の判断は、日本年金機構・SSA・社会保険労務士や年金に強い専門家に、自分の記録を見せて相談してください。一時金の額は加入月数で決まり、2026年度の国民年金なら6か月以上12か月未満で53,760円、上限の60か月以上で537,600円です(厚生年金は報酬に連動するので固定額ではありません)。目先のこの金額の裏で、生涯の受給資格が動くことがある領域です。
次回は、車の話に戻ります。ベガスは車社会。運転ルール・事故のときの動き方・保険の読み方を、いざという時に慌てないよう先にまとめます。
※この記事は一般的な情報提供です。 個別の医療・法律・税務・移民・保険・金融に関する助言ではありません。制度・料金・要件は変わることがあり、実際の手続きや判断の前に、医師・弁護士・CPA(会計士)・各公式窓口など専門家にご確認ください。